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先日の結城メルマガで「繰り返しに耐える作品」の話を書きました。一回読んで終わりではなく、何度も読めるし、何度も読みたくなるし、何度読んでも新しい発見がある。そんな本の話。結城はそういう本を書きたいといつも思っている。

数学ガールでも微力ながらその試みをたくさんしてきています。強く意識し始めたのは2巻目のフェルマーからだと思います。そこではたくさんのイメージの呼応と隠し伏線と隠し伏線回収にこっていました。いまとなってはわたし自身も忘れた伏線もあり、真の隠し伏線になったものも十数個あるはずです。

いつも意識しているのは数学の知識に応じた魅力を感じていただける作品にしたいということです。全くわからない人は少ないが、全てを一回でわかる人も少ない。そして「満足はしたけれど、いつかもう一度読みたい」と思う本にしたいと思っています。ではそのために何をすればいいのか。

単に「解決してないこと」があれば再読したくなるかというとそんなことはないはずです。再読したくなるというのは、知識をもう一度得たくなるというのでもありません。伏線回収でもなく、知識習得でもなく、何を求めて再読するのでしょうか。

「その世界への再訪」が鍵だと思っています。その世界に私もいたい、い続けたい。そこに浸りたい。彼女たちに、もう一度、会いに行きたい。語りたい。もっと語り合いたい。それこそが再読の核心にあります。

そのような「再訪したくなる世界」を創造することが、それこそが、作者の使命ではないだろうか。私はそのように思います。伏線や知識というのは道具に過ぎないのです。手段に過ぎないのです。柱が建物ではないように、やさしい言葉が恋愛ではないように。

ある小学生からのメールにありました。数学はまったくわからなかったし、数式もさっぱりわからなかった。でも『数学ガール』を読んで数学が好きになりましたと。数学がいいものだと思いましたと。大きくなったら数学を学んでみたいと。

再訪したい。素敵な世界を、魅力的な世界をもう一度訪れたい。あれから僕も私もたくさん学んだし、成長した。自分の成長を確かめたい。そんな読者さんをたくさん知っています。きっちり二年ごとに『数学ガール』を再読している人もいます。来年は5回めになるのかしら。

そのような読者さんの期待に応えるために、作者はがんばらなくては。腕まくりをして、何度も何度も読み返し、その一冊で描かれる世界を磨いていく。何度でも何度でも読み返していただける本を作ろう。再読に耐えるものを書こう。

先を急ぐな。本書きは「先を急ぐ仕事」ではない。本書きは「深く潜る仕事」なのだから。昨日のような今日、今日のような明日を過ごしつつ、単語を並べ文章を編む。ほどいては編み直し、組み替えてまた編む。その繰り返しの中で大切なものを見つけ出す。そんな、地味な仕事である。

同じように見える日々を繰り返しながら、より強くより豊かな世界を作るのが本書きである。作者側でのその執拗な「繰り返し」が、読者側での再読という「繰り返し」に耐える作品を作り出すのだと思っている。

連ツイは以下のページにまとまります。
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そしていつか、結城メルマガの読み物に。

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2016-10-15 (Sat) 14:20:28